前回までの記事では、大学の垣根を超えたディベート活動についての寄稿を2回にわたって紹介してきました。
今回は、大学からディベートを始められた溝口翔太さんに、「大会に出場してみよう」というテーマで寄稿をしていただきました!ご自身の経験を通して、ディベートの楽しさや、ディベートをする中でのアドバイスなども書いてくださっています。
大学からディベートを始められた方、大会に出場しようか迷っている方は是非ご覧ください!
①ディベートはハードルが高い?
初めてディベートの試合を見たとき(あるいは,これから初めてディベートの試合を見るとき),きっとこう思う人が多いはずです,「こんなの自分にはとても真似できない」と。試合を見てまず印象に残るのが,話す速度でしょう。自分がこの速度で考えながら話すなんて無理だ,と思い込むのも無理はないと思います。
私も大学からディベートを始めましたが,対戦相手には中高からディベートを続けている人が多くいました。彼ら彼女らは涼しい顔をして高速スピーチでたくさんの議論を出してきます。私も真似して,できるだけ速く喋り,できるだけたくさんの反論をしようと努力しました。それでも,なかなか勝てず,やはり経験の差は埋められないのかと悩んだこともありました。
しかし,今振り返ると,そもそも努力の方向が間違っていました。ディベートは,話す速度や反論の個数で勝敗が決まるゲームではありません。早く話すことそれ自体を真似する必要は,ないのです。
②勝敗の決め手
肯定側のメリットが否定側のデメリットを上回るときに肯定側の勝利となります。では,何がメリットを大きくさせ,何がデメリットを小さくさせるかといえば,それは論題に対する思考の深さです。例えば,今回の論題「日本は最低賃金を大幅に引き上げるべきである」でいえば,メリットとして,最低賃金を引き上げることで起きる良い事柄を考えます。では,最低賃金を引き上げると労働者の賃金はどうなると思いますか?生活はどうなると思いますか?どうしてあなたはそれが良いことだと思うのですか?そもそも,労働者の生活保障はどのようになされるのが理想だと考えますか?あなたにとって,最低賃金とは何ですか?このような問いを通して,自分の頭の中に最低賃金が引き上げられた後の日本が構築されていきます。そして,どれだけ最低賃金に対する思考を深められたか,どれだけプラン後の世界を綺麗に構築できたかで勝敗が決まるのです。私はこのことに気付いてからディベートが楽しくなりました。
私は今では審判もしていますが,審判として関わる中で,反論パートが途切れ途切れのスピーチで,遂には話す内容がなくなり時間が余ってしまう試合も多く見てきました。それでも,相手の立論に対して呟いた素朴な疑問点が致命的な打撃となって勝利したチームもありました。もちろん多くはありませんが,そういう試合を見ると自分の頭で論題について思考を深めることの大事さを思い知らされます。
③色んな人と議論してみよう
ただ,「思考を深める」といっても,簡単ではありません。そもそも,何について考えるべきか,一人で自問自答するには限界があります。だからこそ,友人と議論してみてください。できれば,これまでの経験や考え方の異なる人とチームを組んで議論する方が面白いでしょう。私も,友人とチームを組み,時にはファミレスで深夜まで議論しました。意見が根本的に違うのでなかなか決着しないのですが,なぜこんなに考え方が違ってしまうのか,長い時間をかけて突き詰めていくと,根底にある思想の違いが見えてきます。そうか,当たり前だと思っていたけど,そこを考えないといけないのかと気付けると,得も言えぬ達成感があります。
④ディベート大会に出てみよう
もっとも,それでも限界があります。次は,もっと色んな人,異なる地域の,異なる大学の,異なる年代の,背景が全く異なる人と議論してみたくなるはずです。色んな人がディベートしに集まってくるディベート大会は,その良い機会になります。まずは,練習試合会に参加してみましょう。初めのうちは,私がディベートを始めたときと同様に,全く試合で勝てないと思います。試合中の準備時間に話すことが思い浮かばず,スピーチ時間中に沈黙が訪れるかもしれません。そんなときは,試合後にじっくりチームメイトと話し合ってみたり,あるいは相手チームに率直に感想をぶつけてみましょう。
そういった議論を通して思考が深まり,言いたいことがだんだん増えてくると,むしろスピーチの制限時間が短く感じられてくるでしょう。スピーチ時間中に沈黙していたのとうって変わって,時間内に話しきれないということが増えてくるはずです。そうなってから,早口で聴き取りやすいようなスピーチをする練習をしていけば良いのです。「形から入る」という言葉がありますが,ディベートに関していえば,形から入る必要はありません。とりあえず入ってみて試合を重ねていけば,後から自然と形がついてくるのです。
⑤終わりに
ここまで文章を読んでいるあなたは,大会に出ようか,ディベートを始めてみようか,迷っているのでしょう。しかし,数ある活動の中でもディベートが目に留まったあなたは,その根底で,論題について考えてみたい,誰かと議論してみたい,考えた内容を他人に話してみたいという気持ちがあるはずです。大会にエントリーするには,その気持ちさえあれば十分です。
あなたの考えを,あなたとの議論を,楽しみにしています。
溝口さん、ご寄稿ありがとうございました。次回の寄稿も、特に大会に出場しようか迷っている方に読んでいただきたい内容となっております!次回の記事も是非ご覧ください!